成功事例に惑わされるな 【書評】イノベーション・オブ・ライフ

 

この本、読みました。とても良かった。

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

 

 著者は言わずと知れた、クレイトン・クリステンセン教授。イノベーションのジレンマで有名なお方です。

どういう本なのか

長年、ビジネススクールで先生をやってきた著者が、何度も目にしてきた不思議な現象。それは「ビジネススクールを優秀な成績で出て、事業を成功させた卒業生たちの中に、人生においては不幸せになってしまう者がいる」こと。
あれだけ優秀な人たちなのに、なぜ、家族とうまくいかなかったり、あるいは仕事で信じられないような不正を働いてしまったりするのか。「そんなの、バレるに決まってるのに!」というほど雑な不正をやってしまったり、家族は大切ってわかりきってるのに、家族との時間をおろそかにして家庭崩壊してしまったり。

なんでなの?
アホだから、じゃないよ。むちゃくちゃ優秀な人たちが、だよ。

それは、「仕事」だけで考えてしまっているから。


「誠実に生きる」なんて、人生という枠組みで見たら多くの人が大切なこととして筆頭に挙げるのに、仕事だけに絞ると、誠実さの重要性がググっと下がっちゃったりする。それが、企業の不正を生む。
「人生」全体で考えたら、プライベートも仕事も同列に並べて、すべての中から、大切なものにちゃんと対応していける。たくさんの困難な課題に対応する方法は、もうすでにビジネススクールでがっちり学んだのだから、やりかたがわかんないなんてことはない。何に取り組むべきか、の枠組みをとらえなおすだけでいい。仕事でイノベーションを起こす方法は、数多く学んだでしょ?それを人生(Life)でも起こせばいいんだよ。それが「イノベーション・オブ・ライフ」。

というお話。こう書くと陳腐だけど、なぜかな、この本を読むと染みるんですよねぇ、これが。たぶん、クリステンセン教授の、卒業生に対する想いが文章の隅々にまであふれているからだと思います。「お前らちゃんと幸せになれよ」っていう想い。原文じゃなくて、邦訳してあるのに、これを感じられるってのはすごい訳だよねえ。

そんなわけで、中身をレビューしてもあんまり参考にならないと思います。じかに触れることが大切な本です、これは。

覚えておきたいこと

とはいえ、これだけじゃあ読むべきかどうか判断つかないと思いますので、ぜひ覚えておきたい内容をメモ。

1.スナップショットに惑わされるな

 世の中にある数多のビジネス書、あるいは成功事例。それらは「いま、成功している」その一瞬だけを切り取って(つまりはスナップショット)、分析したり評価したものが実に多い。そんな成功事例は意味がない。惑わされるな。いまこの瞬間だけ成功してても、取り返しのつかない失敗をして、トータルで不幸せになってる企業や人はたくさんいる。人生トータルでよりよくなるように目指していこう。

これは結構、印象に残りました。そう、いま上手くいってるだけの事例を分析してあーだこーだいうの、ずっと違和感あったんです。

2.人生で大切なことを明確にする

 自分の人生にとって何が大事なのか。それは簡単に見つかるとは限らない。見つかるまで何十年もかかることも多い。でも、何が大切なのか常に考え続ける。それが、目先に惑わされて変な判断をしてしまうことから、助けてくれる。そして、何十年も探し続けてとうとう大切なものが定まった時、きっと、その「明確にしたこと自体」が財産となる。つまり、探したプロセス自体が、自分の満足いく人生になる。
これを読んで、星新一(ショートショート作家)の「鍵」という作品を思い出しました。大切なものを探してあちこち旅した経験自体が、大切なものになる。だから、人生の目的探しは、急がなくてもいいんですね。探すことを放棄しちゃだめだけど。

おすすめです。


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できたら、星新一の「鍵」も読んでおいてほしいなあ。星作品の中で、僕が一番好きなやつです。↓これに収録。

妄想銀行 (新潮文庫)

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